朝鮮人民軍軍団配置状況に対する研究

■参考資料

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韓国国防部、「国防白書」1988〜1999年間の各年度(一般販売及び公開)

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韓国北韓研究所、「北韓軍事論」1978(主要公共図書館で閲覧可能)

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韓国内外通信、内外通信の各種資料(ハイテル、チョンリアンで入手可能、現在は連合通信との合併により閉鎖)

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韓国北韓研究所、「月刊北韓」及び各種北朝鮮関連資料(一般販売)

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金ジョンスン、「朝鮮人民軍」(北韓秘史45年シリーズ中)(一般販売)

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米議会調査局、「国家研究北朝鮮編93年版」(一般販売及び公開)

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米国防情報庁(DIA)、北朝鮮軍事力報告書91年版、95年版(インターネットに公開、www.fas.org

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米海兵隊情報団、北朝鮮ハンドブック97年版(インターネットに公開、www.fas.org

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英国IISS、Military Balance各年度(一般販売)

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日本小学館、北朝鮮解体新書(一般販売)

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各日刊紙及び定期刊行物に公開された北朝鮮帰順者の証言

1)序説

 米国のCIA長官が北朝鮮を指して国際情報界のブラックホールと言及したことがある。事実、北朝鮮に関する情報は、軍事情報のみならず、一般的な情報も ありのままにはならない。ましてや、軍事情報は言うまでもない。陸軍だけを見ても、最も基本的な軍団数すら右往左往している。ミリタリー・バランスに師団数等を正確に明記して あって、ここに何らかの根拠があると信じ易いが、北朝鮮師団の総数に対する推定は、最高20個師団程度の差異が出る位、情報に信頼性がない。70年代後半カーターの駐韓米軍撤収に反発した米国情報界のいわゆる「北朝鮮軍事力再評価」のためのみならず、情報の基本的な土台自体が 非常に虚弱である。

 北朝鮮の師団に対しては、いわゆる前縁地域軍団の隷下を除外しては、ありのままに単体ナンバーが民間に公開されていない。前縁地域師団の場合でも、北朝鮮からの脱北者や帰順者とインタビューして出て来た話等を 悉く組み立ててみてこそ、大略的な駐屯位置を推し量れるだけで、全体的な配置現況を知るには途方もなく公開資料が不足した実態である。結局、北朝鮮陸軍の配置に対する研究は、軍団に対するアプローチが一般的だと見られる。

 ところが、荒唐にも甚だしくは軍団すらも駐屯位置や単体ナンバーが明らかではない。日本側資料に北朝鮮軍団名称が詳細に公開されており、何らかの別途のソースがあるのではないかという誤解をし易いが、日本に公開 された北朝鮮軍団現況資料は、ほぼ100%韓国資料が源泉である。長期間の比較検討の果てに下された結論である。シノハラ事件前後に日本の軍事研究誌、戦車マガジン等に公開された資料も国防白書の 枠組みから大きく外れていない。

2)研究の基準となる1988年国防白書

軍団配置図(国防白書1988) 左側の軍団配置図は、国防白書1988年版に載せられたもので、筆者が若干の修正を加えたものである。この軍団配置図は、南北分断以来、国防部が北朝鮮の軍団配置状況に対する判断を初めて公開したものである。それ以前にも北韓研究所等、関連団体で公開した資料に北朝鮮の軍団配置に対して言及したことはあるが、国防部が明らかにしたのはこれが最初である。

 国防白書は、1968年に1度発行された後、1988年に再発行されたものである。韓国が国防白書を毎年発行したのは、1988年からで、結局、1988年版国防白書が事実上最初の国防白書である。

 この配置図を見れば、前縁地帯に4、2、5、1軍団が配置されており、中部地域に3軍団と7軍団、そして後方地域に8軍団と6軍団が配置されている。1軍団から8軍団前は、既に朝鮮戦争中に創設された軍団で、これらの駐屯位置は、概ね70年代以後現在まで大きな変化なく位置されている(北韓軍事論等、北韓研究所資料参照)。

 結局、88年国防白書で初めて公開されたのは、1個機甲軍団(820軍団)と4個機械化軍団の駐屯位置である。このような配置図は、88年は勿論、89年、90年、91年、92年版国防白書まで5年間ほぼ同一である。ただ、91年版国防白書の場合、機甲及び機械化軍団の大略的位置のみ表示しただけで、具体的な単体ナンバーは、地図上に明示していない。92年版国防白書の場合、別途の配置図を入れていない。

3)88年基準機械化軍団の配置に現れた北朝鮮の戦略

 88年版国防白書の軍団配置図において特徴的なのは、相当後方に布陣している第425機械化軍団(定州)と第10機械化軍団(五老)だと言える。

 第815機械化軍団と第820軍団の場合、北朝鮮が万一第2の朝鮮戦争を挑発する場合、第2軍団と第4軍団を主軸にする西部攻撃集団の第2梯隊と第3梯隊の役割を遂行するのに適合した地点に布陣している。第9機械化軍団(94年以降第806機械化軍団と確認された。)の場合、第1軍団と第5軍団で構成される東部攻撃集団の第2梯隊を遂行するのに適合した位置に布陣している。従って、これらの駐屯位置は、簡単に理解される。これらの駐屯位置は、何も追加的な論評を行う必要がない位、明瞭に理解される戦略的配置だと言える。

 ところが、第425機械化軍団の駐屯した位置は、余りにも後方地域に偏ったものに見える。何故、この地点に機械化軍団が駐屯しているのか?その上、平壌以北の海岸地域は、地形上、大規模上陸作戦を展開するのに適合しない地域である(李ソンホ氏の著書参照)対上陸防御用でなければ、考えられる創設目的と主任務は何なのか?

 結論的に言って、恐らく第425機械化軍団は、対空挺防御を主目的に創設したようである。朝鮮戦争時、マッカーサーが指揮するUN軍は、平壌北方の粛川地域に空挺作戦を 展開したことがある。この空挺作戦は失敗したが、北朝鮮には、相当衝撃的な経験だったよのだろう。上の配置図で見られるように、第425機械化軍団がないと仮定する場合、北朝鮮の全般的戦力配置上、平壌北方の大規模空挺作戦には、相当脆弱である外ない。第425機械化軍団が たとえT-34のような旧式戦車を保有した軍団だとしても、空挺部隊には、充分対応できるだろう。

 ただ、近来、米国海兵隊のLCAC戦力の拡大とOMFTS作戦概念の発達に従い、平壌北方の西海岸も米韓両国の海兵隊戦力に完全に自由に上がることはできない。この場合でも、第425機械化軍団が解決策となり得る。更に言えば、第425機械化軍団は、対空挺防御を主任務として、対上陸防御を補助任務として遂行できる軍団と考えられる。有事の際、戦略予備の役割を遂行できるのは勿論である。

 第10機械化軍団(94年以降、第108軍団と確認された。)の場合、対上陸防御を主目的に創設されたことが一目で分かる。やはり何の追加的な論評が必要ない位、直感的に理解される戦略的配置だと言える。第10機械化軍団の場合でも、東部攻撃集団第3梯隊又は戦略予備用として活用できるのは勿論である。

4)毎年変わる国防白書。新設軍団は何個なのか?

 1993年版国防白書の場合、具体的な単体ナンバーも言及しておらず、地図もないが、正規軍団が1個増加した9個軍団と出ている。1994年版国防白書は、正規軍団が更にもう1個 増えた10個軍団と表示している。しかし、1994年国防白書は、91年から93年の3年間言及しなかった北朝鮮の軍団単体ナンバーに再び言及している。ところが、94年版国防白書を88年版国防白書と じっくり比較してみれば、94年版国防白書は、88年版国防白書と重要な差異点を発見できる。即ち、94年版国防白書は、第9軍団と第10軍団を機械化軍団ではなく、正規軍団に分類 したのだろう。

 以後99年までの6年間、国防白書は、北朝鮮の軍団配置に対する説明を継続推定している。その理由は、2つ程度考えられる。

 1つ目は、北朝鮮が90年代以来運団戦力構造と配置状況を持続的に改編しているため、国防白書も毎年推定された可能性である。

 2つ目は、北朝鮮が数年前に編制改編を完了したにも拘らず、韓国国防部が北朝鮮の変化した軍団配置状況を把握できていない可能性である。

 筆者の考えとしては、この2つの要因が複合的に作用した結果と考えられる。国防白書が韓国政府の対北情報判断を正確に反映する資料ではない。国防政策に対する 支持を導き出すため、国民に公開する実に最小限の情報公開サービスでしかない。国防白書は、国防部が知っている内容の極めて一部分だけを制限的に公開する資料であろう。しかし、94年以降の国防白書を精密に対照してみれば、北朝鮮の新設された軍団状況に対して、国防部が 混乱する徴候を難なく読み出すことができる。単体ナンバー未詳の軍団に触れるが、99年版国防白書が再び単体ナンバーを全く言及しないことだけを見てもそうである。98年以降、国防部は、国防関連情報を大幅公開しているが、唯一北朝鮮の軍団状況に対して再び沈黙を守るのは、誰が見ても不自然であろう。下に94年から99年までの国防白書該当部分を上げておいたが、直接読んでみて、その微妙なニュアンスの差異を感じて欲しい。

国防白書1994〜1995年版:正規軍団10個、機械化軍団4個、機甲軍団1個、砲兵軍団2個、平防司

 北朝鮮の地上軍組織は、人民武力部隷下に2個の砲兵軍団と4個機械化軍団を含めて、18個軍団司令部と戦車教導指導局、砲兵教導指導局、そして特殊戦部隊を管掌する軽歩教導指導局で編成されている。師団級・旅団級部隊は、歩兵60個師団/旅団、機械化歩兵25個旅団、戦車13個旅団、特殊部隊24個旅団、砲兵30個旅団等、計152個師団/旅団で編成されている。(中略)北朝鮮は、平壌と元山を結ぶ平元線以南前方地域に9個軍団60余個正規師団/旅団を前進配置することによって、部隊の調整や再配置なくとも現位置からの即刻攻撃が可能である。東部前線に1軍団、中東部前線に5軍団、中西部前線に第2軍団が位置している北朝鮮の前方軍団は、各々攻勢転換が容易なように配置されている。(中略)後方地域は、縦深及び平壌地域に第3軍団と平壌防御司令部及び第7軍団と第9軍団を配置し、その後方地域に3個軍団(6、8、10軍団)を配置し、後方防御及び梯隊別投入が可能なようにしている。

 

国防白書1995〜1996年版:正規軍団11個、機械化軍団4個、機甲軍団1個、砲兵軍団2個、平防司

 北朝鮮の地上軍組織は、人民武力部隷下に4個の機械化軍団と2個の砲兵軍団を含めて、19個軍団司令部と戦車教導指導局、砲兵教導指導局、そして特殊戦部隊を管掌する軽歩教導指導局で編成されている。主要戦闘部隊は、歩兵60個師団/旅団、機械化歩兵25個旅団、戦車13個旅団、特殊部隊24個旅団、砲兵30個旅団等、計152個師団/旅団で編成されている。北朝鮮は、平壌と元山を結ぶ平元線以南前方地域に9個軍団、60余個正規師団/旅団を前進配置しており、東部前線に第1軍団、中東部前線に第5軍団、中西部前線に第2軍団、西部前線に第4軍団が位置している。中部及び平壌地域には、第3、7、9軍団と平壌防御司令部を配置し、後方地域に4個運団(6、8、10、11軍団)を各々配置している。

 

国防白書1996〜1997年版:正規軍団12個、機械化軍団4個、機甲軍団1個、砲兵軍団2個、平防司

 北朝鮮の地上軍組織は、人民武力部隷下に4個の機械化軍団と2個の砲兵軍団を含めて、20個軍団司令部と戦車教導指導局、砲兵教導指導局、そして特殊戦部隊を管掌する軽歩教導指導局で編成されている。主要戦闘部隊は、歩兵60個師団/旅団、機械化歩兵25個旅団、戦車13個旅団、特殊部隊25個旅団、砲兵30個旅団等、計153個師団/旅団で編成されている。(中略)地上軍は、平壌−元山線以南前方地域に10個軍団、60余個正規師団/旅団が前進配置されており、東部前線に第1軍団、中東部前線に第5軍団、中西部前線に第2軍団、西部前線に第4軍団が位置している。また、中部及び平壌地域に4個軍団(第3・7・9・12軍団)と平壌防御司令部、後方地域に4個軍団(第6、8、10、11軍団)が各々配置されている。

 

国防白書1997〜1998年版:正規軍団12個、機械化軍団4個、機甲軍団1個、砲兵軍団2個、平防司

 北朝鮮地上軍は、人民武力部隷下に12個正規軍団と4個の機械化軍団、2個の砲兵軍団を含めて、20個軍団司令部と戦車教導指導局及び砲兵司令部、そして特殊戦部隊を管掌する軽歩教導指導局で編成されている。主要戦闘部隊は、60個歩兵師団/旅団、25個機械化歩兵旅団、14個戦車旅団、特殊戦部隊24個旅団、30個砲兵旅団等、計153個師団/旅団で編成されている。(中略)北朝鮮は、平壌−元山線以南地域に10余個軍団、60余個正規師団/旅団を前進配置させた。東部前線に第1軍団、中東部前線に第5軍団、中西部前線に第2軍団、西部前線に第4軍団が位置している。また、中部及び平壌地域に4個軍団(第3、7、12軍団、部隊名称未確認軍団)と平壌防御司令部、後方地域に4個軍団(第6、8、10、11軍団)が各々配置されている。機動化軍団の場合、平元線以南縦深地域に5個軍団(806・815機械化軍団、820戦車軍団、620・江東砲兵軍団)と後方地域に2個軍団(425・108機械化軍団)が配置されている。

 

国防白書1998〜1999年版:正規軍団12個、機械化軍団4個、機甲軍団1個、砲兵軍団2個、平防司

 北朝鮮地上軍は、4個の野戦軍級前縁軍団と4個の機械化軍団、1個の戦車軍団、2個の砲兵軍団を含む計20個軍団と特殊戦部隊を管掌する軽歩教導指導局で編成されている。主要戦闘部隊は、32個歩兵師団/旅団、10個警備旅団、36個教導師団、2個ミサイル旅団等、計175個師団/旅団 によって、(中略)北朝鮮は、平壌−元山線以南地域に10余個軍団、60余個正規軍団/旅団を前進配置させ、いつでも部隊調整なく奇襲南侵できる状態にある。前方には、東部前線から西部前線まで4個軍団(第1、5、2、4軍団)、中部及び平壌地域に5個軍団(第3、7、12軍団、部隊名称未確認軍団及び平壌防御司令部)、後方地域に4個軍団(第8、9、10、11軍団)が各々配置されている。機動化軍団は、平元線以南地域に5個軍団(806・815機械化軍団、820戦車軍団、620・江東砲兵軍団)、後方地域に2個軍団(425・108機械化軍団)が配置されている。

 

国防白書1999年版:正規軍団12個、機械化軍団4個、機甲軍団1個、砲兵軍団2個、平防司

 北朝鮮地上軍は、4個の前方軍団と4個の機械化軍団、1個の戦車軍団、2個の砲兵軍団を含む計20個軍団と特殊戦部隊を管掌する軽歩教導指導局で編成されている。主要戦闘部隊は、33個歩兵師団/旅団、10個警備旅団、37個教導師団、1個ミサイル師団等、計176個師団/旅団 によって、(中略)北朝鮮は、平壌−元山線以南地域に10余個軍団、60余個師団/旅団を前進配置させ、いつでも部隊配置のの調整なく奇襲南侵できる状態にある。前方には、東部前線から西部前線まで4個軍団、中部及び平壌地域に5個軍団、後方地域に4個軍団が各々配置されている。機動化軍団としては、平元線以南地域に1個戦車軍団、2個の機械化軍団及び2個の砲兵軍団が配置されている。

5)新設軍団は4個。2個は縦深地域、2個は国境地域に配置

 90年代初めから国防部が国防白書の北朝鮮軍団配置図に正規軍団を 表示していないが、機械化軍団の単体ナンバーも削除したのは、北朝鮮の軍団配置現況にある種の変化があることを感知した結果であろう。94年版国防白書を発刊した時点には、最小限2個の正規軍団が追加で創設されたのを確認したのであろう。9軍団を中部地域、10軍団を後方地域に 直したのを見れば、7軍団管轄地域内に追加で1個軍団が創設され、6軍団と8軍団間の朝−中国境地域に1個軍団を追加で創設したものと考えたようである。

 94年版国防白書では、依然機械化軍団の単体ナンバーに沈黙している。しかし、この頃、韓国の情報当局は、過去に9機械化軍団と10機械化軍団として知られていた東部地域機械化軍団の単体ナンバーが別の機械化軍団と同様に3桁であることを確認したのであろう。既にこの時点に国防部が東部地域機械化軍団の単体ナンバーを確認した証拠がある。正に1994年11月4日、ソウル新聞に報道された記事である。良く知るように、ソウル新聞(現大韓毎日新聞)は、事実上の国営新聞である。ソウル新聞は、政府の立場と動向に対しては、そのどの新聞より正確性を見せている新聞である。1994年11月4日付ソウル新聞に報道された「北・米 修交歩みの石休戦線兵力」題下の記事に添付された地図を見れば、東海岸から高城一円に1軍団、平康一円に5軍団、西部前線一円に2軍団、海州一円に4軍団が配置されている。これは、この頃の他の公開資料と同一の内容である。 ところが、興味深くも江原道安辺付近に806機械化軍団と砲兵軍団、新幕付近に815機械化軍団、黄州付近に820機甲軍団、江東付近に江東砲兵軍団等を表示している。江原道地域の機械化軍団の名称を国防白書が再び言及したのは、およそ3年が過ぎた97年版国防白書である。結局、公開資料において806機械化軍団という単体ナンバーが公開されたのは、ソウル新聞が最初である計算である。2個砲兵軍団の位置を地図に表示したのも、この報道が最初だと言える。

 1994年は、核問題により南北間に戦争が勃発する危険がどの年よりも高かったためだった。このため、他のマスコミでも、南北軍事状況に対して多くの報道を行ったことがある。しかし、ソウル新聞報道を除外すれば、他のマスコミ記事に添付された地図は、 別の考えなく引用したものが多い。例を取ると、朝鮮日報社発行の月刊朝鮮94年1月号「深層報道南北韓模擬戦争(WAR GAME)」記事に添付された北朝鮮軍団配置図は、88年版国防白書に出ている配置図と同一のものである。時事ジャーナル1994年4月28日付に出てくる「韓半島戦争シナリオ」記事に添付された地図も同様である。

 1995年1月号新東亜付録に添付された北朝鮮軍団配置図も 興味深いものである。この地図に出てくる軍団配置図は、正規軍団の外に機械化軍団を全く表示しておらず、基本的に誠意のない地図だと言える。また、ちょっと見れば、相当過去の配置図のような感じも与える。しかし、朝−中国境地域の恵山に9軍団を、江界に10軍団を表示しており、各年度国防白書中のどれとも一致しない特異な地図である。9軍団と10軍団を除外した正規軍団配置状況は、88年国防白書と同一である。新東亜付録を見てみれば、9軍団と10軍団が旧地区司令部が昇格したものという説明を している。東亜日報の取材陣が付録を作成するとき、国防部に協力要請を行ったのか、さもなければ、内外通信や北韓研究所等で資料を求めて自主的に作成したのかは分からない。しかし、この地図に出てくる9軍団と10軍団は、95年以降、北朝鮮が脱北者を防止するために、朝−中国境地域に創設したという10軍団と11軍団と事実上同一である。結局、この地図は、94年版国防白書に出てくる状況判断と95年版国防白書に出てくる状況判断間に位置する過渡期的なものである。更に言えば、少なくとも2〜4個程度の軍団が新設された徴候はあるが、駐屯地は正確に把握できないでいる状況を見せているのだろう。新東亜に載せられたこの軍団配置図は、1997年日本小学館発行「北朝鮮 解体新書」にも転載された。カラフルな地図に幻惑され、この地図が正確なものと錯覚しないで欲しい。この地図も1つの過渡期的判断を見せている地図でしかない。

 1996年版国防白書は、その間の混乱をどの程度整理したのかを見せている。即ち、90年代以降新設された正規軍団が計4個で、その中で朝−中国境地域に2個軍団(10軍団、11軍団)が駐屯し、黄海道地域に正規軍団1個(12軍団)、江原道地域に正規軍団1個(9軍団)が駐屯しているものである。このように把握する場合、いわゆる縦深地域を補強するために正規軍団2個を配置し、脱北者防止のために中国との国境地域に正規軍団2個を配置したという理知整然した理論的、戦略的配置であると理解できる。

6)96年基準軍団配置に対する理解

 後方地域地区司令部を第10軍団と第11軍団に昇格させたのは、内外通信に報道されたように脱北者を防止するための意図で国境地域部隊指揮体系を整備するという次元において行われたようである。この外に、これら軍団は、第3梯隊の補助、又は戦略予備として活用できるだろう。

 黄海道の地区司令部を基盤に創設されたものと見られる第12軍団と江原道に創設されたものと見られる第9軍団は、少し複雑な目的で創設されたようである。

 第1に、余りにも当然な話だが、防御的観点から見ると、該当地域の防御縦深を増加させることができる。

 第2に、攻撃的観点から見ると、攻撃時、前縁軍団と機械化軍団に後続する第2梯隊の補助、又は第3梯隊の役割を行うことができる。緒戦に前縁軍団が予想を超過する打撃を受け、持続的名作戦が不可能な場合、第9軍団と第12運団が第2梯隊の主軸である機械化部隊と共に作戦を継続して 出て行くだろう。

 第3に、全面戦勃発時、前縁軍団と機械化部隊が南方に移動すれば、休戦線北方一帯に空白地域が発生する。旧3軍団と旧7軍団 で休戦線から西側では平壌、東側では元山に至る広い地域を担当するのは困難である。その上、平時、1軍団と4軍団管轄区域のような海岸地域は、米韓両国の海兵隊戦力に側面を露出する負担を持たされている。第9軍団と第12軍団は、そのような危険負担を減らすことができる対策となるだろう。

 第4に、兵力資源管理、後方衛戍任務を持っているものと見られるいわゆる地区司令部を全て軍団に名称を統一させたのだろう。名称が士気に及ぼす効果を無視できないためである。

 北朝鮮が9軍団と12軍団を創設した理由は、以上4つの内の1つ又は複合的理由のためであろう。筆者個人の私見としては、3番目の理由が最も大きくないかと考えている。

7)1996年基準配置図(筆者作成)

軍団配置図(1996)

8)6軍団クーデターで解体?その場所に9軍団が移動?

 筆者は、96年版国防白書を見て、90年代前半 混乱していた北朝鮮軍団配置の変化に対して、ある程度整理ができたのではという感じを受けた。しかし、どうして分かろうか?97年版国防白書が再び見解を修正することを・・・。97年版国防白書では、9軍団が消え、単体ナンバー未詳軍団という自信のない表現を使用している。今更のように部隊名称未確認とは?代わりに、1997年版国防白書は、5〜6年間、言及を自制していた北朝鮮機械化軍団の単体ナンバーに対して再び言及している。過去、9機械化軍団と10機械化軍団として言及していた軍団が108機械化軍団と806機械化軍団であることを明示的に確認したのだろう。

 一抹の不安感は、1998年国防白書において更に拡大されている。6軍団が消え、その場所に9軍団が入っており、過去の9軍団の位置には、依然単体ナンバー未詳軍団という表現を使用している。結局、1999年版国防白書は、一切の軍団単体ナンバーに対して言及していない。再び90年代初めの状況に戻っただけであろう。

 一体何事が起こったのだろうか?筆者の考えとしては、軍団の名称を明示的に言及した最後の国防白書である1998年版には、6軍団の名称が見えない点がポイントだと考えられる。北朝鮮問題に関心が多い人ならば、6軍団という単語から正にクーデターを思い浮かべるだろう。

 6軍団では、90年代中葉、金正日に反対した反革命事件(クーデター)が発生したという 噂が蔓延っている(内外通信資料参照)。今この時点において、6軍団が解体されたとすれば、クーデターの外に適当な理由が思い浮かばない。朝鮮戦争以来、半世紀が経つくらい存続してきた6軍団を突然解体する理由が他にないのではないか?

 恐らく、北朝鮮では、クーデターの結果、6軍団を解体し、この地域に9軍団兵力を移動させたのだろう。代わりに、9軍団地域に新たに軍団を創設したが、その軍団の名前は、まだ明らかではない状態なのか?このように見れば、結局、現在の配置は、6軍団のクーデターを 収拾するための過渡期的変化段階にあることを見せている。結論的に言って、部隊名称だけ変えたのみで、基本的な配置方式は、96年と同一と言える。即ち、前方に4個前縁軍団、中部(縦深)地域に4個軍団、後方地域に4個軍団を配置することである。98年版と99年版国防白書において、中部地域に5個運団が配置されていると語ったのは、平防司を含めた数値であろう。

9)1999年基準配置図(筆者作成)

軍団配置図(1999)

参考資料1)米議会調査局−国家研究北朝鮮編1993年版


軍団配置図(米議会調査局1993)

 米議会調査局資料に出ているこの配置図を良く見てみれば、1988年から1992年の間の国防白書の配置図及び説明と完全に同一な内容であることが分かる。この資料の発行時点が1993年であることから、若しかすると当然のことである。何の追加的な言及が必要ない位、1988年版国防白書と完璧に一致している。ただ、1軍団後方地域管轄区域境界線が国防白書の資料と多少差異がある。

参考資料2)米海兵隊情報団(Intelligence Activity)North Korean Country Handbook 1997年版

軍団配置図(米海兵隊情報団1997)

 この地図は、99年に筆者が国内に紹介して話題となっていた米海兵隊情報団の北朝鮮ハンドブックに出ている配置図である。9軍団以降の新設軍団が全く出ておらず、この地図が93年以前の配置図 であることが一目で分かる。ところが、この配置図には、最小限2ヶ所のの深刻な誤りがある。第1に、620 Armament Corpsという正体不明の軍団まで登場している。Armamentという不慣れな用語も異常だが、配置された地域を見れば、820機甲軍団(820 Armour Corps)を誤って表示したのが明らかである。似たような部隊名を持った軍団として、620砲兵軍団(620 Artillery Corps)があるが、この地図に出ている地点は、820機甲軍団が駐屯する地域であって、620砲兵軍団が駐屯するところではない。

 その上、この配置図は、荒唐無稽な失敗を犯している。地図右側を仔細に見れば、1軍団と2軍団が直接管轄区域を接しており、5軍団が相当後方地域である7軍団地域に駐屯しているものと出ている。代わりに、7軍団は、漏れ落ちている。70年代以来、各種公開資料において、5軍団が前縁地帯から撤収し、後方地域に駐屯しているという声はどこにも出ていない。このハンドブックの異なるところで5軍団が前方地域軍団として説明しており、この配置図は、情報判断の差異を見せているものではなく、明白な編集上の誤りが明らかである。このような各点を見ると、マスコミがこの資料をまるでとんでもない機密事項が公開されたように軽はずみに振舞ったのは、誇張であることが分かる。米国軍事情報機関において発行するこの種の本は、特定地域に配置される米軍将校や士兵に該当地域に対する基礎知識を与えるために発行する本でしかない。韓国で言えば、対外秘程度に該当するだけで、1級秘密どころか3級秘密にも及ばない水準の資料である。北朝鮮に関しては、それまでその程度の水準の資料も公開されなかった点においてこの本が重要なだけで、この本自体がいかなるとんでもない軍事秘密を含んだ資料だと評することができないようである。この資料が公開されても、米国政府と軍当局がいかなる措置も取っていないのを見ても、更にそうである(FASは、今もこの本をインターネットに公開している。)。

参考資料3)米国防大学校附属INSS - Strategic Assessment 1997年版

軍団配置図(米国防大学校附属INSS1997) 左側の地図は、米国の国防大学校(National Defense University:NDU)附属研究所であるINSS発刊資料に出ている配置図である。機械化及び機甲軍団は、全く表示されず、正規軍団の配置だけ表示している。93年以降の正規軍団増加を反映しない地図であることから、最小限93年以前の状況を反映している。正規軍団の場合、70年代以降90年代初めまで変化がないために、70年代の配置図としても異常ではない地図である。この資料が発行された時点が1997年である点を考慮してみれば、相当誠意がないと言える。ただ、4軍団管轄区域範囲が他の資料と多少差異がある点が目を引く。

 

 

 

 

 

 

 

 

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最終更新日:2003/05/25